ようこそ「OTO MEETS ART」へ。「OTO MEETS ART」は音(おと)ちゃんの美術鑑賞レビューです。
あなたと、あなたのまちのARTに会いに行きます。

2017/08/01

【月刊OMA】2017年7月~『サンシャワー展』(東京)を観て思い出したこと

ジョンペット・クスウィダナント(インドネシア)≪言葉と動きの可能性≫ 展示風景(森美)

月刊OMA(オーマ)の7・8月号は夏休み特集。
今年は東日本の大きな展覧会と芸術祭を観てまわりました。
7月号は国立新美術館(以下、新美)と森美術館(以下、森美)で同時開催された『サンシャワー展』。
筆者が今年、とっても楽しみにしていた展覧会のひとつです。


 ASEAN設立50周年記念
 サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで
  2017年10月23日まで
  http://sunshower2017.jp/


鑑賞してもう1ヶ月以上経つのだけれど、正直なところいまいち書きたいことがまとまらなくって・・・。
でも、自分は以前と比べたら、ずいぶん東南アジアの美術が観られるようになったな、と思います。
唐突ですが、個人的に記録しておきたいのでそれについて書いてみます。

FXハルソノ(インドネシア)≪声なき声≫ 展示風景(新美)

実を言うと、ほんの数年前まで、東南アジアの美術は観られなかった。
まったく惹かれなかったと言っていいかもしれない。
観ることは観るのだけれど、「もっと観たい」と思わなかった。

筆者の地元には福岡アジア美術館(以下、アジ美)がある。
おもに東アジア・東南アジア・南アジアの近現代美術を紹介する美術館。
なので筆者にとって東南アジアの現代美術との出会いは、このアジ美から始まる。


 福岡アジア美術館
 http://faam.city.fukuoka.lg.jp/home.html


とにかく戸惑うのである。
色彩とか、筆のタッチとか、題材とかに。
東アジアはかろうじて想定内。
でも東南アジアは、なんかもう、生理的に受け付けられないことさえあった。

たぶん、これまで観てきたものは、自分の置かれた環境や経験の延長線上にあったのだろう。
だから何かしら共感できる部分を見い出せていたんだと思う。
学校で習った歴史や、作家の半生について少しは知識を持っていたことも大きいだろう。

でも、東南アジアの美術について言うと、そんなものがなかった。
まずそれに気が付いた。

フィリピンがどこの国の植民地だったのか。
シンガポールがどうやって経済的に発展したのか。
タイの人はなぜあんなに国王に対して親しみを感じるのか。

考えたこともなかった。
もちろん行ったこともない。

知らず知らずのうちに時間をかけて養われた自身の美的感覚。
アートとして「美しい」「良かった」と感じるもの。
自分が知っている文脈や秩序が見えるもの。
それからも大きく外れていた。

輪郭の見えない混沌した世界を、捉えるすべが分からなかった。

コラクリット・アルナーノンチャイ(タイ)
≪おかしな名前の人たちが集まった部屋の中で歴史で絵を描く3≫
展示風景(森美)

アジ美の作品をじっくり観るようになってまもなく。
筆者は頭の中に、もうひとつ脳みそが増える感覚を覚えた。
これまで大事大事に育ててきた鑑賞センスと、それが通用しないことを提示するもうひとつの脳。
苦しかった。
なんでかって、なかなかお互い仲良くなってくれなかったからだ。

でも、何故だろう。
だんだん観られるようになった。
慣れてきたんだと思う。
「観たい」「知りたい」とも思うようになった。
まだよく分かんないけど、楽しい。
本当に不思議。

相変わらずもうひとつの脳は、筆者の頭の中に住んでいる。
高慢チキな既存の脳も、しぶしぶ存在を認めてくれたようだ。
互いの間に存在する「壁」が「膜」くらいに薄くなったのかもしれない。
時折行き来もしている。

そのおかげか最近、美術鑑賞において西洋圏だ、非西洋圏だとかあまり気にならなくなった。
筆者の既存の感覚は、明らかにアジアの美術に影響され今もなお変わり続けている。


ソピアップ・ピッチ(カンボジア)≪ビック・ベン(大きなメンガ)≫
展示風景(森美)

ブー・ジュンフェン(シンガポール)≪ハッピー&フリー≫
展示風景(新美)

実際、筆者にとって『サンシャワー展』は、観やすい。

大変配慮の行き届いた展覧会だと思う。
特に、各セクションや各作品の解説パネル。
多すぎず、少なすぎず、文章も分かりやすかった。
何となく持つ(あるいはいつの間にか植え付けられた?)東南アジアのイメージ。
鑑賞者の中にそれがあることを十分理解していて、無意識にそれを前提に観ることが想定されている気がした。

ただ、2館合わせるとかなりの作品点数だ。
日を改めて1館ずつ拝見したが、地方美術館の床面積に慣れている筆者には少々大きすぎる。
映像作品も多い。
遠方でなければ、少し日を置いてもう片方を観た方が印象に残る作品も増えたと思う。

とは言え、この展覧会は、楽しい。
現代美術の醍醐味は、やはり作り手が自分と同じ時間を生きる人だと言うことだろう。
海の向こうに住む人だって、日々の糧を得るために汗を流し、政治に疑問を持ち、家族や友人を愛している。
それが熱い熱いエネルギーと共に伝わってくる。

アングン・プリアンボド(インドネシア)≪必需品の店≫
展示風景(新美)

アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ(タイ)
≪サンシャワー≫ 展示風景(森美)

会場には学生や、20代30代の観客が数多くいた。
たくさんの若い人や子どもたちが足を運んでくれたらいいなと思う。
この展覧会からいっぱい刺激を受けてほしい。
その中から現地で活躍する作家や研究を志す人がどんどん生まれてほしい。
日本とアジア各国の美術の関係を深める人がもっと増えて、発信してくれたらいいなと思う。





*こちらもぜひご参考までに・・・

 SEAプロジェクト
  http://seaproject.asia/


 『サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで』
  2017年11月3日(金)~2017年12月25日(月)
  福岡アジア美術館へ巡回
  ※掲載した画像には一部巡回しない作品も含まれています。
  http://faam.city.fukuoka.lg.jp/exhibition/detail/451





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2017年7月の記録

1日 太宰府天満宮【展覧会】
  宝物殿、境内美術館
  「ライアン・ガンダー展 - 太宰府天満宮コレクションより」


15日 WALD ART STUDIO 【個展】
  「柔らかな障壁」奥村 順子 展


27日 WHITE SPACE ONE【個展】
  「よしながこうたく 作家10周年記念企画 絵本原画展」


30日 福岡アジア美術館【個展】
   ヤル―滞在制作作品「ヤル―パーク」公開

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*最終更新:2017年9月